生死を分かつ一本の線。
その線の内側にギリギリで踏み止まることが出来るのか、
あるいは向こう側に行って戻ってこられなくなるのか。

男は思いつめた表情で前方を見た。
彼をそこまで追い込んでいるのは、目の前にある紙切れと長短二本の針だ。
これだけのものが成人も近い一人の男を苦しめ、生死の狭間に追いやる。
彼も敵に対抗するための武器を持っていないわけではないのだが、
右手に握り締めた木製の棒は先ほどから全く動く気配を見せない。
衰弱の果てにある中では意識を保つことすら困難で、状況を打破する手立ても見出せない。
そんな彼の体の自由を奪っていくのは二本の針だった。
針たちは規則的な連係動作を行い彼の体力を確実に奪っていく。
しかしこの針を倒せばいいというわけではない。
というのも、この戦いの主目的は魔性に魅入られた紙切れを倒すことにある。
針をどうこうしたところでそれは現実逃避に過ぎず、
紙切れに勝利しない限り彼が前進することは有り得ない。
そして彼は先に進むために、高みに上るために屈するわけには行かない。
この道を志した者ならば誰もが経験する、いわば通過儀礼のような戦いだった。
だが、通過儀礼さえ通過できないというケースも存在するし、彼が今まさに陥ろうとしている。
夢魔の誘いはこの上なく甘美で、やさしく、抗い難い魅力を持っている。

やがて二本の針は互いに背を向け合って天と地を指し示した。
途端に窓からは朝日が差し込み敗者の顔を照らし出す。
負けたもののそれとは思えない安らかな表情だった。
恐らく彼が特別なわけではなく、同じような敗者の屍は無数に転がっているのだろう。
それでも彼が負けた事実は変わらない。
彼は前述の屍の山と同様に落伍者の烙印を押されることになる。
タンイ・フニンテイ。死を宣告する呪文が彼に与えられたのだった。