お前さ、最近吸わなくなったよな。
ファミレスで向かい合って座る友人が、手で煙草を吸うポーズを取って言った。
僕は彼をちらっと見ると無言で頷いて、それから再びメニューに視線を落とす。
それから少し間を空けて、彼に聞こえるかどうかという小声で呟いた。
「あんなに体に悪いもの、いつまでも吸ってられるかよ」
僕が禁煙を始めたのは1年ほど前で、今では立派な煙草嫌いになっている。
しっかり聞こえていたらしい彼は、僕が言い終わると同時に笑い出した。
彼はそれまでの僕のヘビースモーカーっぷりを知っているから笑うんだろう。
「あのお前がなぁ。考えられないな」
「そう?僕は初めから、今年で止めるつもりだったよ」
「禁煙する時期を決めて吸い始める奴なんているんだな」
彼はお冷をぐっと一気に飲み込んで言う。言ってやりたい。
注文が来る前にお冷を空っぽにする奴なんているんだな、と。
彼は人のことは気にするけれど自分のことはさっぱり気にしない変わった奴だ。
自分のことは棚に上げる、と悪く言うことも出来るし
自分のことを顧みずに人のために何かを出来る、と良く言うことも出来る。
そんな彼だから、3年前に僕が煙草を吸い始めた時にはものすごい勢いで止められた。
曰く、せめて20歳になるまで待て、と。ちなみに僕は今ちょうど21歳になる。
「んで、どうして急に今年……あ、いや、予定通りに今年止める気になったんだ?」
「全然面白くなくなったから」
「面白、ってお前なぁ。今までは何が面白くて吸ってたんだよ」
「あれだよ。子供の頃のエロ本への憧れみたいなもん」
「はあ?」
彼は理解できない、という言葉と表情を同時に展開した。
我ながらちょっとおかしな例えだとは思うが、これが一番しっくりくるのも事実だった。
ということで、もう少し彼に続きを説明してやろうと思う。
「ガキの頃ってさ、なんでか知らないけどエロ本って罪なんだよ。あれ読む奴は悪い奴」
「そりゃ親には言えないし、友達にもなあ」
「そういうこと。自分の社会から悪いことって決められてるんだよ。
だから憧れるんだよ。法定年齢クリアしてから読んだって面白くも何とも無いよ」
「……すまん、分かってやれない」
「ああ、そっか。ああいうの好きだもんね」
「ちょっと待て!」
そういう意味じゃない、と慌てて否定しに掛かる彼の様子が可笑しかった。
そこで注文したピザとハンバーグが同時に届いて会話は一時中断。
再開した時には話題が少し戻っていた。
「さっきの続きだけどよ……つまり何か?
お前が煙草を吸ってた理由は、悪いことだからってことか?」
「まあ概ねそんな感じかな。
なんて言うのかな……ささやかな背徳感?これがたまらないよね」
「10年来の付き合いの俺が言うのもなんだが、
やっぱりお前って変な奴だよな」
ハンバーグを口に運びながらの彼の一言。
そう、いつだって結論はここに至るわけで。
僕は胸に渦巻くあれこれを一言にこめて吐き出す。
「僕もそう思う」
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